京都駅の近くで、打合せがあった。
5時頃に終わったので、一杯飲み屋を探してみる。
このドキドキ、ワクワクする一瞬が好きだ。
当たりか、はずれか、自分の鼻を信じるのみ!!
京都タワーの横で、一軒のおでんやを見つける。
名前は「ヘンコツ」。
私はこういう店名が好きではない。
「がんこ」とか「へんこつ」とかそういう事を売り物にする根性がきらいだ。
・・・かと言って、「なんじゃく」とか「優柔不断」とかそういう店名が好きと言うわけでもない。念のため。
しかし、この日はどうした訳か、こういう自分の気持ちも乗り越えてみたかった。
のれんをくぐると、10席ぐらいのコの字型のカウンターと奥には6人掛けほどのテーブルがある。
いちばん、入り口近くの席に座る。
80過ぎのおばあさんが、丸い大きなおでんの入った鍋をグルグルとかき混ぜている。
その色はチョコレートブラウン(醤油色を軽く通り越している)。
・・・ちょっと引いてしまう。
とりあえず、寒かったので燗酒を頼む。
何を食べるかちゅうちょしていると、おばあさんが「うちは肉がうまいよ」とおっしゃる。
壁のメニューを見ると、豆腐やジャガイモのほかに「すじ肉」「テール」などのメニューが確かにある。
そして、一番目立つ位置に「サルベージ(底)」というメニューがある。
・・・サルベージって何よ?・・・
沈没船の引き上げかよ・・・
と、悩んでいるとまたもやおばあさんに声をかけられた。
「とりあえず、サルベージにしとこか」と言って、勝手に皿に取り始めた。
何の事はない、鍋の底に沈んだ様々な部位の肉をお玉でかき集めて、引き上げてくるのだ。
大量のネギをかけ、「はい!」と渡された。
これは、もしかして・・・やはり、八丁味噌の「味噌おでん」だ。
京都で「八丁味噌」は反則やろ・・・と思いながら食べてみる。
甘味もなくあっさりしてるが、やはり、食べなれてないのできつい。
胸焼けしそうである。また、はずれかぁ。
次々と常連が訪れ、「サルベージ!」「こっちもサルベージ!」とオーダーする。
ますます、気分は落ち込んでいく。
「おばあちゃん、おいらの気持ちをサルベージ・・・」と心の中で呟いた。