コラム | 第9話 サルベージ

京都駅の近くで、打合せがあった。
5時頃に終わったので、一杯飲み屋を探してみる。

このドキドキ、ワクワクする一瞬が好きだ。
当たりか、はずれか、自分の鼻を信じるのみ!!

京都タワーの横で、一軒のおでんやを見つける。

名前は「ヘンコツ」。
私はこういう店名が好きではない。
「がんこ」とか「へんこつ」とかそういう事を売り物にする根性がきらいだ。
・・・かと言って、「なんじゃく」とか「優柔不断」とかそういう店名が好きと言うわけでもない。念のため。

しかし、この日はどうした訳か、こういう自分の気持ちも乗り越えてみたかった。

のれんをくぐると、10席ぐらいのコの字型のカウンターと奥には6人掛けほどのテーブルがある。

いちばん、入り口近くの席に座る。
80過ぎのおばあさんが、丸い大きなおでんの入った鍋をグルグルとかき混ぜている。
その色はチョコレートブラウン(醤油色を軽く通り越している)。

・・・ちょっと引いてしまう。

とりあえず、寒かったので燗酒を頼む。
何を食べるかちゅうちょしていると、おばあさんが「うちは肉がうまいよ」とおっしゃる。

壁のメニューを見ると、豆腐やジャガイモのほかに「すじ肉」「テール」などのメニューが確かにある。

そして、一番目立つ位置に「サルベージ(底)」というメニューがある。
・・・サルベージって何よ?・・・
沈没船の引き上げかよ・・・
と、悩んでいるとまたもやおばあさんに声をかけられた。

「とりあえず、サルベージにしとこか」と言って、勝手に皿に取り始めた。
何の事はない、鍋の底に沈んだ様々な部位の肉をお玉でかき集めて、引き上げてくるのだ。

サルベージ・・・

大量のネギをかけ、「はい!」と渡された。

これは、もしかして・・・やはり、八丁味噌の「味噌おでん」だ。
京都で「八丁味噌」は反則やろ・・・と思いながら食べてみる。
甘味もなくあっさりしてるが、やはり、食べなれてないのできつい。
胸焼けしそうである。また、はずれかぁ。

次々と常連が訪れ、「サルベージ!」「こっちもサルベージ!」とオーダーする。

ますます、気分は落ち込んでいく。

「おばあちゃん、おいらの気持ちをサルベージ・・・」と心の中で呟いた。