向かいの家に仕事に来た塗装屋の山崎さん。
普通は塗装屋さんの名前を覚えたりしません。
山崎さんは日曜日の朝、挨拶に来られました。
「お向かいの壁を塗りますので、少し騒がしいかも知れません。
お休みの日にご迷惑をおかけします。」
腰の低い、感じの良い職人さんだった。
しかし、この山崎さん、仕事にかかると非常に騒がしい。
大声で助手の人とお喋りするのだ。それも基本的な前提が間違ってることを喋る。
「アメリカのオバマがイギリスの大統領の電話を盗聴していたらしいですよ。」とか言うのだ。
まず、オバマは直接盗聴しないし、イギリスに大統領はいないし、
というようなつっこみどころ満載なことを次から次へと、喋り続ける。
助手はそのたびに「まじっすか、山崎さん!」と合いの手を入れる。
「それはちゃうやろ!」と言いたいのだが、それも言えず、苛々だけがつのっていく。
「テニスのシャラポワっているじゃないですか、ロシアのチェルノブイリの事故の時にお父さんがアメリカに連れてわたり、錦織と同じテニススクールに入れたんです。 最初の入学金をためるのに一年間、仕事を掛け持ちしてお金貯めたらしいですよ。そうじゃないと、あんなシャラっとして、ポワッとした子はできません。」
「まじっすか、山崎さん!」
まじな訳、ないやろ!!
山崎さんの言う「お騒がせします」とはこの事だったんだ。
…刷毛でペンキ塗ってうるさいわけないもんな。